最高裁判所第一小法廷 昭和61年(行ツ)155号 判決 1988年10月13日
愛知県小牧市大字小針字中宮二七八番地
上告人
南山興産有限会社
右代表者代表取締役
冨田一子
右訴訟代理人弁護士
小久保豊
愛知県小牧市大字小牧字東浦一九五〇番地
被上告人
小牧税務署長
折戸利夫
被上告人
国
右代表者法務大臣
林田悠紀夫
右当事者間の名古屋高等裁判所昭和六〇年(行コ)第六号法人税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和六一年七月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人小久保豊の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。また、本件訴訟記録によれば、第一審及び原審の審理上の措置に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審において認定しない事項若しくは独自の見解に基づき、原判決を論難するものであつて、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 角田禮次郎 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ッ谷巖 裁判官 大堀誠一)
(昭和六一年(行ツ)第一五五号 上告人 南山興産有限会社)
上告代理人小久保豊の上告理由
【第一点】
第一 憲法違反の主張
一 課税所得に対する直接税の割合、すなわち担税率が一〇〇%を超えるとその文明は滅びると言われる。
上告人の本件係争年度である第五期(昭和五二年五月期)、第六期(昭和五三年五月期)、第七期(昭和五四年五月期)のうち、第六期と第七期の担税率は、別表のとおり一〇〇%を超えている。
そこで上告人は質問を呈する。
「あなたは、担税率が一〇〇%を超える課税でも、憲法二九条二項にいう『公共の福祉に適合する』と思いますか。」
【第二点】
二 本件出資者への利益配分率が七五%のときに、限界収益1に対して限界費用は(税率は第五期から第七期までのそれ)0.25(当社の取り分)×0.4(法人税)=0.1(一般法人税)
{0.2(法人税重課)+0.1(一般法人税)}×{0.145(市民税)+0.062(県民税)}+0.25(当社の取り分)×0.12(事業税)=0.0921(地方税合計)
0.75(利益分配金)+0.2(法人税重課)+0.1(一般法人税)+0.0921(地方税合計)=1.1421(社外流出)
となる。
そして担税率は
<省略>
となる。
つまり、後記本件各契約の、ある一つの契約に基づく不動産の売却科学が、実際の契約額より一億円高額であったとすれば、該契約による分配金と被上告人小牧税務署長(以下被上告人という。)の課税処分により、より高額に売却できた一億円に対して、一億一四二一万円が支出されるので、上告人は差引一四二一万円の損失を受け、課税所得額は二五〇〇万円(一億円×〇・二五)増加するが、この増加に対し担税率を乗じた三九二一万円の直接税を負担することとなる。
このことは、上告人が、業績を挙げるため勤勉に努力して不動産の売却価額をより高額にすればするほど、損失(社外流出)が大きくなることを意味する。
かくして勤勉は美徳ではなくなり、大損失をもたらす悪となる。このような課税をされると文化の源泉である勤勉がこの世からなくなり、社会は衰退し、そして文明は滅びる。
そこでまた質問を呈する。
「あなたたは、このように勤勉を悪とする課税でも、憲法二九条二項にいう『公共の福祉に適合する』と思いますか。」
三 後記本件各契約が、法人税を支払った後の利益を分配するのではなく、法人税支払い前の利益を分配する契約であることを、被上告人は十分に承知し、したがって上告人の担税率が一〇〇%を越えることになることを十分承知してなされた本件原処分は、右の二点からして憲法違反である。
よって、これらの点を看過した原判決は、憲法二九条一項、二項に違背し、ひいては憲法八四条に違背する。かつ租税法律主義の主要な内容である『納税者の公平』及び『納税者の権利保護』に欠けるので、憲法八四条に違背する。
【第三点ないし第一七点】
第二 民法上の組合契約であることの主張
一 原判決(引用する一審判決を含む。)は、本件各更正処分等について、「原告を契約当事者(買主)として本件各土地の取得が行なわれ、……原告を契約当事者(売主)として本件各土地の譲渡がされたこと……、本件各土地の所有権に関する登記はすべて原告名義によりなされていることの各事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、原告は本件各土地の取得及び譲渡を行なったものと推認されるというべきところ……」として、土地譲渡利益金額は租税特別措置法六三条(以下措置法六三条という。)の適用上はすべて上告人に帰属するものとした。
しかし、以下の各点で述べる事由により、上告人に帰属する譲渡利益金額は本件各土地(一審判決別紙四の土地)の共有持分に応じたものに限られるべきであり、措置法六三条の適用上もすべて上告人に帰属するわけではないから、原判決には判決に影響を及ぼすべき法令違背がある。
二 この上告理由でいう本件各契約とは、いずれも訴外人である冨田一子、大橋輝子、冨田治朗、冨田真、冨田善美、冨田精明、冨田時枝、冨田清幸、合資会社大橋屋、大橋秀孝、大橋勘一、大橋きぬ、則武道生のうち三名ないし六名に、上告人を加えた当事者の間において、各自が出資して特定の不動産を購入し、資金不足が生じたときは別途協議して追出資をし、購入した不動産は上告人が管理して指定の方法で使用収益し、売上げから直接の必要経費(本件法人税は含まない。)を差引いた残額の七〇%又は七五%を現金出資額に応じて利益分配し、不動産を売却した場合の収益もこれと同様に利益分配する、との約定の下に、契約日を異にして締結された六個の契約をいう。
三 本件各契約に基づく不動産売却について、被上告人は当初『共同売買行為』と認定し(成立に争いのない甲第七号証の裁決書次葉23のB項)、継いで本件各契約につき『金銭消費貸借』と主張し(昭和五八年六月一五日付準備書面七枚目裏)、原審では一審判決にならない『商法上の匿名組合』と主張し、原判決もこれを容れて『商法上の匿名組合』と認定した。
その理由とするところは、
<1> 共同事業とはみられないこと
<2> 購入、管理、売却を単独でしていること
<3> 出資者は事業に参画せず利益分配のみを目的としていること
<4> 不動産の共有が認められないこと
【第三点】
四 しかし、本件各契約は原判決が認定しような商法上の匿名組合契約ではない。
1 匿名組合といえども法律的かつ経済的(つまり法律取引Rechtsverkehrとして契約されたからには、その効果が内部的と外部的とに分離することはあっても、法律的と経済的とに分離することはない。法律的に共同事業であるならば経済的にも共同事業であり、経済的に共同事業であるならば法律的にも共同事業である。どちらかの一方において共同事業であるならば他方の関係においても共同事業である。これは経済的観察法以前の問題であると考える。)に『共同事業』であるので、もし『共同事業』でないとしたら匿名組合も成立しない。
原契約も、「匿名組合といえどもこれを経済的にみれば、匿名組合員と営業者との共同事業に外ならないが、法形式の面からみれば、外部に対し営業活動をするのはあくまでも営業者のみであって、匿名組合員は営業に全く関与しないのである。」(9丁裏九行目以下)と判示するが、『共同事業』についての定義はともあれ、外部に対する営業活動の法形式によって匿名組合か民法上の組合かが決まる、とするこの判旨では、上告人が一審以来主張しているところの、いわゆる『内的組合』はすべて匿名組合になってしまい、大正六年五月二三日大審院判例(民録二三輯九一七頁)から昭和五九年一月一九日東京高裁判例(判例時報一一二五号一二九頁)までの数多の判例に違反することになる。
これらの蓄積され、確立した判例によれば、『組合員の一人にその名において組合事業を行なうことを委任するも、組合の性質に反せず、かつ組合員の共同事業たることを失わない』のであって、原判決がこれらの確立した判例に違反していることは明らかである。
【第四点】
2 本件各契約に基づく不動産の購入、管理、売却は、各出資者の同意を得て上告人名義(ただし、後述【第一六点】で指摘するものを除く。)でなされていた。そして実際には大橋勘一、大橋秀孝親子がその経営に係る大橋商事株式会社の営業として、又は上告人の代理人もしくは土地の管理人として、購入、管理、売却をしていたものであること、及び民法上の組合にあっては業務執行者(本件では上告人)が定められた場合には業務執行者が単独で購入、管理、売却をなし得ることからして、原判決がいう前述の<2>「購入、管理、売却を単独でしていること」は、本件各契約が匿名組合であることの決め手にはならない。
【第五点】
3 匿名組合の成立には、「出資者が隠れた出資者として事業に参画する意思があること」を要件としている(昭和三二年七月二六日東京地判、金融法務一五〇号一三頁。昭和三三年七月三日東京地判、行集九巻七号一三五〇頁。同日同地判、税務資料二六号六七三頁。昭和三四年九月一二日東京高判、行集一〇九巻一二七号二三七三頁。昭和三六年一〇月一七日最高二小判、税務資料三三号九七九頁。昭和三七年一〇月二日最高三小判、税務資料三六号九三八頁は、いずれも消費寄託と認定された事案)。
したがって、「出資者が利益分配のみを目的として事業に参画する意思がない」ときには匿名組合も成立しないことになる。
4 右上告理由第三点ないし第五点につき、民法上の組合か匿名組合かの判断基準とはならないものを判断基準として匿名組合と認定した原判決には、民法六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った法令違背があり、ひいては民訴法三九五条一項六号の理由不備がある。
五 本件各土地は出資者の共有であり、本件各契約は民法上の組合契約であって、その事由は次の各点のとおりである。
【第六点】
1 本件各契約は、数人が共同の出資をし、その資金によってある不動産を購入し、その不動産を『経済的手段として継続的な事業を経営する』か、又は値上がりを待って転売することに主たる目的があったことは、本件各契約の文面によって明白である。
したがって、原案においては、大正六年四月一八日大審院判決(民録二三輯七九九頁)の趣旨に従い、「ある特定の不動産を『経済的手段として継続的な事業を経営する』などの目的で数人が共同の出資をし、その資金によってある不動産を購入し場合には、反証がないかぎりその不動産は出資をした者の共有に属するものと推定する。」と判断すべきであったのに、これをしなかった原判決は判例に違反し、民法二四九条の解釈及び適用を誤った違法がある。
【第七点】
2 「共同所有財産を経済的手段として継続的な事業を経営する」場合は、民法上の組合の主要な類型の一つである(我妻栄『債権各論中巻二』七五一頁)。
本件各契約は、単独所有の不動産ではなくして各出資者の出資金によって購入した不動産を経済的手段として継続的な事業を経営することを目的としたものであるから、民法上の組合の典型的な一例である。まして単独所有の不動産でも、これを出資して経済的手段として継続的な事業を経営する場合は民法上の組合が成立することに疑いはない(なお、上告人は単独所有の不動産を経済的手段とした事業をしていない)。
それに、匿名組合は、事業開始の前後を問わないが、営業者の存在が不可欠であって、その営業のために出資するものであるところ、本件は、各出資者の出資により購入する特定の不動産を経済的手段として、『新規に』継続的な事業を経営することを合意したものであるから、出資の対象となる事業は、出資契約以前には存在せ、先行する営業者がないわけであるから匿名組合契約とはいえない。
したがって、原審においては、「ある特定の財産を『経済的手段として継続的な事業を経営する』場合は、民法上の組合の主要な類型の一つであるので、本件各契約は民法上の組合の典型的な一例であり、かつ契約によって限定された事業を新規に始め、その事業終了と同時に出資契約も終了するという契約であって、いわば出資と事業が一体であり、営業者固有の事業がない契約であるので、匿名組合とは相容れない事業である。」と判断すべきであったのに、これをしなかった原判決には民法六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った違法がある。
【第八点】
3 近代的所有権は、借地法、借家法、建物保護に関する法律、相隣権及び建築基準法等による制限を除いて『絶対』である(フランス民法五三七条一項「個人は、その者に属する財産について、法律が定める変更のもとに、自由な処分権Iibre dispositionを有する。」)
もし、所有権の内容である『使用、収益、処分』に何らかの制限があったならば、それはもはや完全な所有権とは言えない(昭和五八年三月二四日最一判民集三七巻二号一三一頁は、「占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったときは、民法一八六条一項の所有の意思の推定は覆される。」として、『使用、収益、処分』に何らかの制限があったとか、所有権の内容に反する態度の表明又は行動がいささかでもあれば、所有の意思にかげりがあるものとして、その推定は覆されることを明らかにし、所有権の『完全性』を表明している。)
この意味において『単独』所有権はいわゆるホワイトゾーンに属すると言える。ホワイトゾーンにあっては、合理的な理由がある場合を除いて、その『使用、収益、処分』につきいささかのかげりも許されないのである。
近時、共有の多様性が論じられ、「外部的には(すなわち通常の法律関係において)共有関係ではなくて、組合員相互の関係でのみ共有」(Creifelds, Rechtswfile_2.jpgrterbhch 5 Auflage S.595,5 Auflage S.611)及び山田◎『ドイツ法律用語辞典』一九八頁のそれぞれInnengesellschaftの頁参照。)という共有もあり、かつ共有には所有権の内容である『使用、収益、処分』に何らかの制限が本質的にあるものとすれば、それらの共有はいわゆるグレーゾーンに属すると言える。
すなわち、自己の単独所有名義であっても、その特定の財産の『使用、収益、処分』について、いささかなりとも他人が関与する権利があるときは、賃借権等の合理的理由のないかぎり、共同所有と推定されるのである。
本件各契約書には、共同で購入した特定の不動産について、「この不動産を貸店舗又は駐車場として利用する。」など、『使用、収益』に関する制限が記載されているので、グレーゾーンに属し、したがって共有を前提としているのである(フランス民法五三七条二項「個人に属さない財産は、それに固有の形式及び規則に従って管理され、又それらに従ってでなければ、譲渡することができない。」)。
又、全出資者の合意によるこのような『使用、収益』に関する制限は、いわゆる『団体意思の表明であり、『共有』であるからこそ、かかる『団体意思』の表明があったものということができる。
そして、措置法六三条の譲渡利益の判断にあたっても、外部的な関係ではなく、内部的な関係で課税すべきことは国税庁の内部通達でも定めており、被上告人も一審において(昭和五八年八月二四日準備手続期日)、民法上の組合にあっては、持分に応じて課税することになる旨を釈明している。
したがって、原審においては、「所有権の内容である『使用、収益、処分』に社会的制約などの合理的な理由以外による何らかの制限があったならば、それはもはや所有権(単独所有)とは言えないところ、本件の各契約書には『使用、収益』に関する制限が記載されているので共有と推定される。」と判断すべきであったのに、これをしなかった原判決には民法二〇六条の解釈及び適用を誤った違法がある。
【第九点】
4 いうまでもなく契約は当事者の意思の合致により成立する。冷静に振返ってみると、本件各契約の際、各出資者は民法上の組合契約を締結するか、又は匿名組合契約を締結するかの選択の自由があった。
そこで、前述第一の一、二のような非文明的、反社会的結果を招くような契約をあえて選択しなければならぬ特段の事情があったであろうか。何もなかった。むしろ実際は、匿名組合契約であったならば契約が不成立に終ったであろう。それは次の理由により誰の目にも明らかである。
一 すなわち、もし匿名組合契約をしたならば、上告人は担税率を下げるために措置法六三条によって認められる経費額を限度とする譲渡益になるように売却価額を算出して、自己の最大の利潤を確保しようとするだろうから、他の出資者はこの程度の譲渡益で満足するはずはない。出資者が自己の出資金によって購入した不動産を高く売れるにもかかわらず、ひとり上告人の利益のみを考えて安く売ることを承知するだろうか。承知するはずがない。したがって当事者はかかる契約を締結するわけがないのである。
各出資者にとって、上告人設立前の単純な共有の当時よりも、より不安であり、より不利益になる 契約を誰が締結するであろうか。
「あなたならそのような匿名組合契約を締結しますか。」
絶対にするはずがない。誰だってそうはしない。
上告人としても、より高く売れたときには自らが莫大な損失を招き、より安く売ったときには出資契約の趣旨に背き、他の出資者の利益に反する結果となる契約をことさら選択するはずがないのである。
二 さらに、利益分配の対象は必要経費を差引いたものであるが、本件各契約書では法人税が必要経費から除かれている(甲第二九号証ないし三三号証の各一)ので、各出資者が土地譲渡による所得税の重課を負担する契約であったことが明らかである(後述【第一一点】参照。)
このことは取得不動産が出資者の共有であったことの証左である。
この点、一審判決は「営業者が該匿名組合の営業により生じた利益をどのように分配するかは、措置法六三条とは何ら関係のない単なる内部関係にすぎない」(31丁裏末行以下)というが、その内部関係が契約時に明確になっている異常、措置法六三条と無関係だとはいえない。けだし、法人税を必要経費から除くことによって、出資者は不動産の共有を合意し、ひいては民法上の組合契約を選択したことが明らかであるといえる。
結局は民法上の組合契約でなかったならば、本件各契約は絶対に成立することはなかったわけであるから、当事者の意思を推測すると、民法上の組合契約となる。
三 次に、本件各契約の成立に至るまでの経緯として、原判決がいうように、「控訴人の設立前においては、投資の目的で数人共同して出資し不動産を購入した場合には、出資した金額に応じた持分により共有登記が付されていたが、これでは売却する際、手続が煩雑になる上、頻繁に売買を繰り返すと宅地建物取引業法に抵触するという慮れもあり」(原判決7丁裏四行目以下)、加えて、管理責任の明確化を計ることにあったのであり、そのために外部的には上告人の単独所有名義としたのである。
しかし、それ異常に従前の共有を実質的に変更して、例えば内部的にも上告人の単独所有とする契約を締結しなければならない必要性は全くなかったのである。
四 よって、原審においては、「匿名組合契約であったならば契約は不成立に終っていたことは誰の目にも明らかである本件のような事情がある場合における出資契約は民法上の組合契約である。」と判断すべきであったのにこれをせず、かつ本件各契約において内部的にも上告人の単独所有と変更しなければならない特段の事情について何らの判示をしなかった原判決には、経験則違背ないし理由不備の違法があり、ひいては民法六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った法令違背がある。
【第一〇点】
5 右に述べた管理責任の明確化に対応して、労務出資と、出資された労務に対する利益分配の割合を定める条項が設けられたのである。
労務出資について原判決は、「控訴人の労務それ自体に対しては割合ないし金額が明示されていないことも考慮すれば、前記利益中の留保をもって、控訴人の労務出資が前提となっていたと結論するのは、牽強付会の論といわざるを得ず、」(8丁裏九行目以下)というが、利益中一定割合を上告人に与えるのは、組合のための労務は上告人の責任において提供するからであり、一定割合の中身はほとんど労務であるが、その労務出資の評価は算定困難なものであるから、契約書に労務出資を含めたものに対応する利益分配の割合が定めてあれば足りる。この労務出資の主張を上告人の牽強付会というか、原判決の独断であり経験則違反というかは、慧眼を持つ最高裁判所の判断をまつほかない。
【第一一点】
6 原判決は、「いずれも当審証人大橋秀孝の証言により真正に成立したものと認められる甲第三六号証の一、二、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない甲第三七号証の一、二、第三八号証をもってしても、右共有関係を認めることはできず、また当審証人大橋秀孝の証言中には、購入不動産はいずれも出資者の共有であるという供述も存するが、右供述は本件各契約の内容に照らしたやすく信用できず、」(7丁表七行目以下)としているところ、甲第三七号証の一、二、第三八号証は、いずれも証人大橋秀孝が昭和五二年分及び昭和五三年分の所得税について、本件各契約書記載の不動産は共有として所轄税務署に深刻したという内容であるから、この記載内容を否定するには、それなりの合理的理由を要するにもかかわらず、何らの説明もなさず有力な証拠を排斥した原判決には、採証法則に反しかつ重大な理由不備がある。
【第一二点】
7 一審において弁論の全趣旨により成立の真正が認められた各契約書(甲第一号証、甲第二九号証ないし三三号証の各一)には、出資総額につき取り決めがあり、一通の契約書に全出資者の記名押印があり、各出資額の取り決めがある。
これからすると、出資総額、出資者、各出資額のそれぞれの変更には契約者全員の同意を要するものとみられるのであるから、これは基本的には事業者と出資者の二当時者間の契約であるところの匿名組合契約ではなく、いわゆる『合同行為』であるところの民法上の組合とみるべきである。
したがって、原案においては、「契約書には、出資総額につき取り決めがあり、一通の契約書に全出資者の記名押印があり、各出資者の出資額の取り決めがあることからすると、出資総額、出資者、各出資額のそれぞれの変更には契約者全員の同意を要するものと判断すべきであったのに、これをしなかった原判決には民法六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った法令違背がある。
【第一三点】
6 匿名組合契約にあっては、前述のように『出資者が隠れた出資者として事業に参画する意思』を要するとしているものの、もし現実に事業に参画する方途が講ぜられているならば、それはもはや『共同経営』であって、『共同事業』の枠を超えたものであり、民法上の組合となる。
本件各契約書には資金不足の場合の協議義務がもれなく記載されているので、追加の資金を要する事業の開始にあたっては、業務執行として組合員の多数決によるべく(民法六七〇条一項)、又、民法上の典型的な共有であれば、共有物の管理として、持分権の多数決によることになる(民法二五二条)。
なお、追加の出資については、全員の合意によると規定されているものとみるべく、したがって、契約書に現実の事業参画の規定を有するからには民法上の組合契約ということができる。
よって、原審においては、「匿名組合契約にあっては『出資者は隠れた出資者として事業に参画する意思』を要するとしているものの、もし現実に事業に参画する方途が講ぜられているならば、それはもはや『共同経営』であって、『共同事業』の枠を超えたものであるから民法上の組合契約となるところ、本件各契約書には資金不足の場合の協議義務がもれなく記載されているので、この協議を通じて事業に現実に参画する規定を有するからには民法上の組合契約である。」と判断すべきであったのに、これをしなかった原判決には民法六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った違法がある。
【第一四点】
9 次の事由を総合すると、本件各契約書の記載自体から民法上の組合契約であることが分かる。
一 出資者は利益分配のみをみくてきとしているのではなく、現実に経営に参画する方途が講ぜられていること。
なお原判決は、「控訴人は右のような問題を解消するため、購入不動産を控訴人の単独所有として、売買はすべて控訴人自身の営業活動として行なうという、法形式を単純化する目的で設立されたものであって、出資者はそれから生じる利益の分配にのみ与るという実質を確保したものと解せられる。」(7丁裏末行以下)というが、出資者が利益分配のみ与るとの認定は、現実に参画する方途が講ぜられていることを無視した論理の飛躍があり、経験則に違背する。
二 事業が『共同事業』であるばかりではなく『共同経営』であること。
三 不動産が上告人の単独所有であることと相容れない規定(「この不動産を貸店舗又は駐車場として利用する。」など)があって、むしろ共有であるとみるべきこと。
四 民法上の組合契約を締結するか、又は匿名組合契約を締結するかの選択の事由があるときに、別表のように租税率が一〇〇%を超える契約を選択する者は誰もいないこと(すでに被上告人において承知のとおり、上告人ら出資者が本件訴え提起後取得した不動産に関しては、民法上の組合契約であることを契約書中において明文化している。そして東京国税局所得税課近江修の『税務弘報』昭和五四年一〇月号<共同事業の意義と課税上の基本的考え方>一〇一頁の「匿名組合契約は、その性質上表面的に現われないが、諸種の営業において予想以上に広く行なわれているようである。」との解説にもかかわらず、実情は第一で述べたような課税上の不合理のために匿名組合の契約が皆無に近いことを注目すべきである。)
五 ある特定の財産を『経済的手段として継続的な事業を経営する』場合は、民法上の組合とみられること。
以上を総合すると本件各契約が民法六六七条の組合契約であることが明らかである。
よって、原判決には民法六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った違法がある。
【第一五点】
10 原判決は契約解釈の方法論的誤りをおかしている。
一 例えばゾウであるかサイであるかを判定するのに、共通事項である皮膚の色とか足の数とか重量とかで判定しようとするのが原判決の前記三の<1><2><3>の判別法であり、他の気に入らない相違点には目をつむり、重要でないとか、決定的でないとか、又は無視したりするのは正しい判別法ではない。
ゾウとサイの区別は、鼻の長さだとか角の有無が決定的判別法であるので、上告人は本件につきその特徴をつかんで、前述のようにその決定的判別法を試みたのである。
二 フランス民法は
一一五六条「合意においては、その文面の字義に拘泥するよりもむしろ、契約当事者の共通の意図がどのようであったかを探究しなけらばならない。」
一一五七条「ある条項が二つの意味にとれるときは、なんらの効果も生じることができない意味においてよりもむしろ、なんらかの効果を有することができる意味において理解しなければならない。」
一一五八条「二つの意味にとれる文言は、契約の内容に最もふさわしい意味にとらなければならない。」
と契約解釈の基準を規定している。
前述五の1、2、4については右一一五六条を、同3、5、7、8については一一五七条と一一五八条を本件各契約の解釈に適用することにより、正しい結論が導き出される。
三 およそ契約書において、必要なすべての条項を疎漏なく表現することは不可能であるが、契約書に使用された字句は必要不可欠であったからこそ表現されたものと言うことができる。
例えば本件各契約書において「乙がこの不動産を利用するについて資金不足が生じたときは甲乙間で別途協議し甲は乙を援助する」(乙は上告人、甲は他の複数出資者。甲第一号証参照)との『別途協議』条項は、これがなかったならば契約は絶対に成立しなかったといえるほど重要である。もし本件各契約が匿名組合契約であったならば、この『別途協議』条項は不要な条項であったことになる。
そこで、「ある条項がなんらの効果も生じることができない意味においてよりもむしろ、なんらかの効果を有することができる意味において理解しなければならない。」というフランス民法一一五七条の規定を適用すれば、『別途協議』条項が一つあるだけでも本件契約が民法上の組合契約であることが明らかになるわけである。
そして、これと全く同じ手法でもって、前述五の1、2、3、4、5、7、8のどの一つをとっても民法上の組合契約であること、又は本件不動産が共有であることを明らかにした(なお、共有に関する新しい学説又は分析として高島平蔵<共同所有理論と団体法思想>早稲田法学第六一巻第三・四合併号一一九頁。山田誠一<共有者の間の法律関係共有法の再構築>、法学教会雑誌一〇一巻一二号一〇二頁、一〇二巻一号七四頁、三号七〇頁、七号六八頁があり、全社は単独所有と共同所有との異質性を論じ、後者は共有の多様性を論じている。)。
よって、原判決には経験則違背による著しい理由不備がある。
【第一六点】
11 利益分配の実際に共有を推測させる事実がある。
一 本件各契約のうち、昭和四八年一月三一日付契約書(甲第三一号証の一)に基づき取得した名古屋市緑区鳴海町字山下二番の一宅地八五二・八九平方メートルは、分筆してその一部を昭和四九年七月二四日(第三期)に、残りを昭和五一年一〇月四日(本件第五期)に売却した(乙第四号証、五号証の一、二)。
二 又、昭和五二年三月一日付契約書(甲第三二号証の一)に基づき、同時に取得した名古屋市東区東桜二丁目一三三二番地宅地一二一・一二平方メートル及び同所一三三三番地宅地九九・六七平方メートルは、一三三三番地の土地を昭和五二年一〇月四日に、一三三二番地の土地を昭和五三年五月四日(いずれも第六期)に売却した(乙第九号証、一〇号証)。
三 しかるに、本件において、共同の出資金で不動産を取得し、右二例のようにその一部を売却した場合であっても、その売却益の分配に当っては、売却土地の面積に応じて売却益を算出し、かつ継続的事業の利益分配の約定の時期に拘りなく、売却のつど利益分配をしたのである。
そして、土地の一部を売却した際、売却土地の面積に案分して出資元金を出資者に返還している(一につき甲第二三号証のNo15、甲二五号証のNo21。二につき甲第二六号証のNo29、30)のであるが、このことは出資と不動産との強い結びつきを示すとともに、さらに共有を前提として利益分配をし、かつ出資元金を返還したものとしか考えようがない。
もし匿名組合なら、事業に対する出資であるから、不動産の一部売却による利益分配は当然としても、出資金を売却面積の割合に応じて返還することはないのである。このことは、売却不動産が内部的に『共有』であったことを示している。
よって、この点を看過した原判決には、経験則違反ないし民法二四九条、六六七条、商法五三五条の解釈及び適用を誤った法令違背がある。
【第一七点】
六 原判決は、「原告を契約当事者(買主)として本件各土地の取得が行なわれ、……右認定に反する証拠はない。」(原判決が引用する一審判決26丁裏五行目以下)というが、本件各契約書のうち(甲第二九号の一)には、大橋勘一が昭和四七年六月一二日契約手付金を支払った旨の記載があり、上告人の会社設立は昭和四七年六月一六日である(当事者間に争いのない事実)から、会社設立前に土地取得契約(手付金支払い時)を締結することはあり得ない。
この点上告人は、昭和五八年八月二四日付準備書面4頁四行目以下で「訴状別表7の不動産番号2は、取得売買契約の買主は大橋勘一……であり、」と主張したのに、被上告人は明らかに争わなかった。
よって、原判決には、事実認定につき採証法則ないし経験則違背があり、かつ理由不備がある。
【第一八点及び第一九点】
第三 立証妨害及び釈明義務違背等の主張
一 被上告人に立証妨害があった。
1 上告人は、昭和四九年一〇月二三日ごろ第二期(昭和四九年五月期)及び第三期(昭和五〇年五月期)以降の土地譲渡利益の計算方法につき、被上告人の部課職員AB(担当者Bは、本件各契約と同一趣旨の契約書による第二期分の不動産売買についての課税方法が分らず、直接の上司が不在であったため、他部門の長であるAの指示を仰いだのである。)から指導を受け、それに従って確定申告をしてきたが、その指導中数値の選択に一箇所合理性のない部分の指導があった(以下本件誤指導という。)
2 上告人は本件誤指導の事実を明らかにするため調査したところ、指導をした日時、署員の執務机の位置は分ったものの、その氏名が分らなかったので、昭和五九年一月二五日の準備手続において、
<1> 昭和四九年一〇月二三日現在の小牧税務署法人税・源泉所得税第一部門、同第二部門、同第三部門のそれぞれの統括国税調査官、総括上席国税調査官及び上席国税調査官の各氏名
<2> 右同日、右統括国税調査官のうち、休暇、出張、または会議等のため、午前一〇時三〇分から午後までの間(但し昼食時間を除く)勤務室に在席しなかった者の氏名
<3> 右同日、右三部門の事務机群は東から西へ第一から第二、第三部門の順に配置されていたか。もし、そうでないとすればどのような配置であったか
<4> 右同日、右三部門の事務室内で、東端部門の事務机群のうち南端において西面及び東面する事務机で勤務していた二人の氏名
<5> 右同日当時において、原告を担当していたのは右三部門のうちいずれか、また担当者の氏名
<6> 原告の第三期分の確定申告書添付の別表三二の内訳書の計算方法が、第二、第五及び第六の各確定申告書添付の別表三二の内訳書の計算方法と同一の方法によっているか否か
につき、昭和五九年一月二五日付準備書面を陳述して、被上告人が釈明するよう求問権を行使した。
これに対し被上告人指定代理人は、右<1>については昭和四九年度の職員名簿を提出できる。<2><3><4><5>については分らない。<6>については釈明の必要がない、と述べた。
しかし、被上告人としては、右<5>について裁決書次葉23(甲第七号証)に「原処分庁の職員が、昭和四九年一〇月頃に請求人の代表者と面接し、とある記載からして担当者の氏名が分らないはずはない。
そして、<1>については別の年度の名簿を任意提供したのみであり、<3>については、せめて上告人の要求する第一部門以下の事務机の部門別位置関係ぐらいは信義則上調査して回答する義務があるものというべきである。
又、<6>について釈明できる内容であるのにこれに応じなかったのは、被上告人が本件誤指導の事実を隠蔽するためであったといわざるを得ない。
3 これに関して上告人は、二審において昭和六一年二月二四日付文書提出命令の申立書で、
<1> 乙第二九号証の二(土地の譲渡等に係る譲渡利益金額に対する税額の計算に関する明細書)に添付されていた「別表三二の内訳書」(甲第二〇号証の三に該当するもの)
<2> 乙第二九号証の二(土地の譲渡等に係る序と利益金額に対する税額の計算に関する明細書)に添付されるべきものとして書き直した「別表三二の内訳書」(甲第二八号証の二に該当するもの)
なる両文書の提出を求めた。
これに対し被上告人は、右<1>の文書を任意提出したが、本件誤指導の直接の証拠である甲第二八号証の二の原本に当たる右<2>の文書は見当たらないとして、期の異る第三期分の「別表三二の内訳書」(甲乙第四〇号証)を任意提出したのであった。
しかし、右<2>の文書は存在したはずである。
けだし、該文書の書き損じ分である甲第二八号証の一、及び提出控えである甲第二八号証の二が上告人の手元に存在している事実、該文書の内容と裁決書次葉23(甲第七号証)中に記載のある「共同売買行為と認定し、」との趣旨が一致すること、逆に第二期分の「別表三二の内訳書」(甲第三九号証)の内容と右裁決書の「共同売買行為と認定し、」との記載とは一致しないこと、及び第二期分の「別表三二の内訳書」(甲第二八号証の二)と第三期分の「別表三二の内訳書」(甲第四〇号証)と、第五期分の「別表三二の内訳書」(乙第一号証の二)と第六期分の「別表三二の内訳書」(乙第二号証の三、四、五)とはいずれも同一の記載方法であることから、少なくとも第二期分の確定申告書の審査時ころには被上告人の許に存在したことは明らかである。
そして、被上告人は昭和五八年一〇月一二日付準備書面二枚目三行目以下において、「右不動産売却行為が共同売買行為であるかどうかも検討はなされていないのであり、」と主張し、成立に争いのない裁決書次葉23(甲第七号証)中の「共同売買行為と認定し、」との事実に反する主張を平然としているのである。
4 さらに上告人は、昭和六〇年一二月四日付控訴人準備書面第四で、
<1> 甲第二〇号証の三の計算方法は、甲第七号証の決裁書次葉23でいう「共同売買行為」を前提とした計算方法か
<2> もしそうでないとしたら、昭和四九年一〇月頃までの控訴人の関係諸帳簿(甲第二一号証、甲第二二号証)及び昭和四八年一一月二八日付金銭消費貸借契約書(甲第二八号証の三)から、どのようにして「控訴人の確定申告による課税土地譲渡利益金額二万二〇〇〇を是認」できたか
<3> 昭和四九年一〇月頃までの控訴人の関係諸帳簿(甲第二一号証、甲第二二号証)及び昭和四八年一一月二八日付金銭消費貸借契約諸(甲第二八号証の三)から、どのようにして「共同売買行為と認定し」たか
<4> 「共同売買行為」を前提としたときに、甲第二八号証の二の計算方法は、当時の法人税法及び法人税基本通達の明文に基本的に反する点(数値の選択が適切でないために合理性を欠くとみられる一ヵ所を除く。)があるか
<5> 甲第七号証の次葉23でいう「確定申告書の記載事項についての誤りを補正し」たのは甲第二〇号証の一ないし三のどの部分か
<6> 乙第二九号証拠の二の28欄に、その作成者である控訴人が記載しなかった部分として(その控えである甲第二〇号証の二との比較参照)
「651,000 812 434,000」
の記載があり、この六五一、〇〇〇円は、7欄の一二、〇五一、〇〇〇から、甲第二八号証の二に記載の(有)ナゴヤカメラサービス元金一〇、〇〇〇、〇〇〇と、久世佐智子一、四〇〇、〇〇〇の合計一一、四〇〇、〇〇〇を控除した残額と符合し、つまり共同売買行為と認定したときの控訴人の持分を当時の担当者が甲第二八号の二により算出して記載したものと思われるがどうか
につき釈明を求めた。
これに対し被上告人は、いずれも釈明の必要はないと述べた。
5 これらの事実を総合すると、被上告人は自己の支配下にあって、上告人の手が届かないことを計算の上、徹底して本件誤指導をした証人の捜索を妨害し、唯一の物証である右<2>の甲第二八号証の二の原本を隠匿又は紛失したとの疑いが極めて濃厚である。
【第一八点】
二 裁判長に釈明義務違反があった。
1 上告人は本件誤指導の事実を明らかにするため、前記昭和五九年一月二五日付原告準備書面を陳述して、前記釈明事項について口頭弁論移行後の裁判長の発問を求めてあった。
さらに上告人は、昭和六〇年一二月四日付控訴人準備書面第四で、前記<1>ないし<6>の釈明事項につき求問権を行使した。
およそ釈明の制度は、弁論主義の形式的な適用による不合理を修正し、訴訟関係を明らかにし、できるだけ事案の真相をきわめることによって、当事者間における紛争の真の解決を図ることを目的として設けられたものである(昭和四五年六月一一日最判民集二四巻六号五一六頁)し、積極的釈明義務に関し考慮されるべき要因として、判決における勝敗逆転の蓋然性、当事者の申立や主張などにおける錯覚ないし誤解による法的構成の不備、当事者間の公平、一回的紛争解決の要請などの諸点が指摘されている(中野次雄『釈明権』小山昇外編・演習民事訴訟法、上三六五頁)。
2 しかるに、一、二審裁判長は、唯一の証人である者の氏名を、上告人は知り得ず、被上告人のみがこれを知り得て、かつ信義則上調査協力すべき事項に属しているのであるから、当事者間の公平、一回的紛争解決の要請及び事案解明のため、被上告人に釈明を求め、その内容を明らかにすべき義務があったものと解すべきところ、これをしなかた。
よって、原審には民訴法一二七条の釈明権の行使を怠り、裁判の公正を欠く審理不尽の違法がある。
【第一九点】
三 以上の事実によると、被上告人は自己の支配下にあって、上告人の手が届かないことを計算の上、徹底して本件誤指導に関する証人の捜索を妨害し、唯一の物証である右<2>の甲第二八号証の二の原本を隠匿又は紛失したとの疑いが極めて濃厚である。
しかるに、原審は「証明妨害の法理に一応の合理性が認められるとしても」と理解を示しながらも、釈明命令及び文書提出命令を直ちに発することもなく、林昭春証言に言及するのみでその余の判断を避けている。
なお、上告人が原審において右文書提出命令の申立を撤回したのは、前述<1>の文書が任意提出され、<2>の文書に代わるものとして第三期分の文書が任意提出されたので、結審直前裁判長の勧めにより訴訟促進のため撤回したものである。
この経緯は、上告人の昭和六一年四月七日付証拠説明書(追加)の、
「二、甲第四〇号証(第三期分の確定申告書添付の「別表三二の内訳書」)。本証は、控訴人の右同申立に基づき、文書の表示2号の文書に代わるものとして第三期分が被控訴人より任意提出されたものである。」
によって推測し得る。
よって、原審が証明妨害の法理により、民訴法三一七条及び四二〇条一項五号後段の規定の趣旨を体して、民訴法一八五条にいう弁論の全趣旨を斟酌して本件誤指導を認定すべきであったのに、これをしなかったのは法令手続の違背である。
【第二〇点】
第四 帳簿上の支払利息が、消費貸借における元本使用の対価として支払われているときは、当該消費貸借が有償契約であったことが推定されるとの主張
上告人が昭和五二年三月一日なした上告人の役員冨田一子に対する帳簿上の支払利息(以下本件支払利息という。)につき、一審判決はその36帳表七行目以下において、本件支払則は「右借入金を各元本としてその借入期間について年一割の利率をもって計算した額を一括して支払った」ことを認定しながら、「右金員の借入れについて利息の約定が存した事実を認めるに足りる証拠は存しない」として、本件支払利息を役員賞与に該当するものとしている。
つまり、右一審判決を引用する原判決は、借入金の授受があったこと、及びこの借入金の元本使用の対価として本件支払利息が支払われたことを認定しながら、当該消費貸借契約が有償契約であったことの立証責任を納税者側に負わせるものである。
ちなみに、これを売買についてみてみよう。ある物品の授受があったこと及びその対価として代金の支払があったことは認定できるが、売買つまり有償契約であったという立証がないから贈与に該当するというわけである。
納税者は日常の売買取引において、代金の受領証の交付は受けるが、そのつど売買契約書を作成することはしない。もし、税務署側が代金の受領証はあっても売買契約書のない取引の損金計上を全部否認したとしたら、徴税効果は五〇%以上向上するであろうが、それでよいのかという上告人の主張に対して、原判決が何ら応答しないのは理由不備の違法がある。
そして原判決には、本件支払利息が消費貸借における元本使用の対価として支払われたときには、当該消費貸借が有償契約であったことが経験則上推定されるのに、利息の約定の立証がなかったとして本件支払利息を否定するのは、民法五八七条、五五九条の解釈及び適用を誤った違法があり、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。
第五 被上告人国の関係。
前述第二のとおり、本件各不動産が各出資者の共有であり、かつ本件各契約が民法上の組合契約であることは、原処分の時点においてすでに明瞭であったものであり、これに反してなされた原処分は違法なものであるから、被上告人らの応訴は不当抗争に当たる。
よって上告人は、原判決の破棄を求め、さらに相当の裁判を求める。
【参考】
第六 外国の制度
1 西ドイツにおける匿名組合に対する課税方法
所得税(法人税も同じ)の課税標準となる課税所得額は、出資者に対する分配金を控除した後の所得額であるが、営業税の課税標準となる課税所得額は、出資者にたいしる分配金を控除する前の所得額である(Fleischer. M&ller, Stille Gesellschaft im Steuerrecht 3.Auflage 1978 S.S.9-37参照)。
しかし、匿名組合契約にあっては、営業税を支払った後の利益が分配されるという契約条項があるので本件のように担税率が一〇〇%を超える事態は発生しない。
2 西ドイツにおける内的組合に関する判例
「組合員の組合への関与が外部的に知られていなく」ても、「共通の目的の達成のため契約による合意」があるときは内的組合が成立する(BGH 12,314 und RGZ 166,163.)q
3 フランスにおける内的組合
内的組合に関するフランス民法については、一審の昭和五七年一二月八日付準備書面において詳しく述べたので、ここでは、匿名組合も法律的に『共同事業』であること(一八三二条、一八三三条)と、内的組合にあっては、組合員の一人が第三者との関係において財産の所有者であった(一八七二条四項)としても、組合員間においては不分割つまり共有とみなされる(一八七二条二項、三項)という二点を指摘するにとどめる。
以上
別表
直接税の納税額一覧表
<省略>
(注)1 過少申告加算税及び延滞税は含まれていない。
2 担税率は課税所得額Aに占める直接税合計Bの割合の%である。
3 課税所得額及び税額は、青色申告による欠損金の繰り戻しがないものと仮定して算出した。